2013年03月24日

オバマ政権下のITマネジメント改革

1.2. 連邦政府におけるITマネジメントの枠組み:ITマネジメントの問題点

IT調達の難しさは調達制度との不一致だけに由来するものではない。ITマネジメントには官民を問わず、要件定義やプロジェクトマネジメントの重要性と難しさが伴うことがよく知られる。

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制度上の問題とは別に、ITマネジメントそのものの難しさも重要な課題であった。予算超過やスケジュール超過に代表されるITプロジェクトの失敗は、一般に大規模プロジェクトにおいて過半にも及ぶとされる*1。その原因は技術的なものではなく、専ら要件定義やプロジェクトマネジメントの失敗に帰着される。後のクリンガー・コーエン法の策定時には、米国連邦政府においても多くのプロジェクトがこの例に漏れないことが指摘されている*2

要件定義の難しさは、ITシステムの持つ細部の仕様に対する依存性に由来するものと考えうる。行政ITシステムは通例ホワイトカラー業務の自動化や迅速化に用いられることが多いが、ITシステムは定められた仕様に従って杓子定規に動作することしかできないため、最終的なシステム設計に当っては「どのようなホワイトカラー業務を行うのか」ということを仔細に至るまで定義しなければならない。しかもITシステム導入後には業務の流れが変化するため、将来における業務のあり方を精緻な手順書に相当する情報量で書き下すことが求められる。要件定義はそれら全てを見越して事前に行わなければならないスコープ設定であり、プロジェクトが大規模になるほど難易度が飛躍的に高まる。

プロジェクトマネジメントの難しさは、多様な利害関係者が絡みあう中での的確なリスクコントロールの難しさと言いうる。前記のようにプロジェクトの目標たる要件定義が困難であるからには、プロジェクトが抱えるリスクの把握も容易ではない。また、プロジェクトには必ずしも利害の一致しない複数の利害関係者が関わるのであって、リスクに対処するための手を打つに当っても利害調整の労を割かなければならない。ITシステムの特性をよく承知しつつ利害関係者間の調整にも有能な資質を備えたプログラムマネージャ、プロジェクトマネージャは稀であり、体制において万全を期してITプロジェクトの立ち上げに臨むことは困難な課題である。

以上の大きく2つの問題は官民問わずITマネジメント一般に見出される。ばかりでなく古くより知られた古典的な課題でもあり、解決に向けたノウハウも徐々に蓄積されてきている。そこで、過去の模範例―ベストプラクティスを積極的に吸収し、マネジメント手法そのものを洗練させることが連邦政府においても改善に向けた指針となった。


*1
よく知られるのは次の報告書。
“Chaos”, (The Standish Group, 1995)
https://cdn.projectsmart.co.uk/white-papers/chaos-report.pdf

ただし批判的観点からの次のような反論もある。
“The rise and fall of the Chaos report figures”, (J.L. Eveleens and C. Verhoes, 2008/12/17)
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.143.7918&rep=rep1&type=pdf
*2
“House of Representatives Report 104-450 Conference Report”, (1995)
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/cpquery/R?cp104:FLD010:@1(hr450)