2013年03月24日

オバマ政権下のITマネジメント改革

3.2. ITダッシュボードとTechStatセッション:ITダッシュボードとTechStatセッションの概要

ITダッシュボードは2009年6月より運用開始となったが、その前身はVUE ITと呼ばれる同種のIT投資情報の開示システム(Webサイト)であり、更にその原型は行政管理予算局のまとめる監視対象ITプログラムの一覧Management Watch Listであった。そもそもの起点となるのは、1996年のクリンガー・コーエン法によって行政管理予算局に課せられた、連邦政府全体でのIT投資マネジメントの改善義務である。以下ではこの間の事情を振り返る。

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Management Watch List

1996年、クリンガー・コーエン法は行政管理予算局に対し、予算プロセスの一環として各省庁の主要なIT資本投資のリスクを分析・追跡・評価するプロセスを策定するよう義務付けた。対象となるのは調達時の活動だけではなく当該投資のライフサイクル全体であり、また、実費、実益、リスクの分析基準を明示することとした。更に、これらのIT投資プログラムが狙いとする実益とその達成状況を、年次予算報告と合わせて議会に報告することも義務の内に含まれた*1。これらの法的な義務に従い、行政管理予算局はCPICの手法を編み出し、IT投資プログラムの情報を書式53および書式300の書面提出を通じて各省庁から収集し、得られた情報に基づいて見出された監視対象プログラムの一覧をまとめることとした。その結果が行政管理予算局のManagement Watch Listである。行政管理予算局はManagement Watch List中のプログラムの中から特に高リスクであると見られるプログラムをHigh Risk Listへと転記し、当該プログラムのリスク緩和策について主幹省庁への指導・監督を推進した。

しかしながら、Management Watch Listは行政管理予算局の内部でのみ運用され、一般には公開されることがなかった。Management Watch Listに基づくIT投資プログラムの監視・改善の状況は長らく概要のみが漏れ聞こえるに留まった*2。クリンガー・コーエン法の制定から約10年後の2005年になって議会の追求により明らかになったのは、同法の定めにも関わらず、行政管理予算局の内部ではIT投資プログラムのリスク状況を判断するのに客観的な基準を確立することができておらず、また、その後の対策の実施状況の追跡も不十分であるという実態であった。かかる実態は米連邦議会下院の行政改革委員会*3の公聴会*4で公となり、翌2006年には、トム・コバーン上院議員の求めによって、Management Watch Listの内容が行政管理予算局のWebサイトにて公開される運びとなった。*5

公開されて以後、Management Watch Listの運用状況は議会からの求めに応ずる形でしばしば政府説明責任院(GAO*6 )による調査の対象となり、運用上の課題が数多く指摘されるようになった*7*8*9。こうした流れの中でリスク判断の基準明確化や要注意プログラム一覧の一元管理、議会への報告などについては順次改善されたものの、解決されないままに残った課題も少なくなかった。特に大きな問題は、掲載されている情報が細部を欠き公開情報だけでは行政管理予算局が適切にリスク事案を見分けることができているかどうかを外部から判断できないことと、掲載されている情報の正確性にも疑いのあることであった。後者の問題は、省庁がプログラムの目標値であるベースラインの設定や引き直しを適切に行なっていなことに大きな要因があることも指摘された。例えば、予定されたスケジュールに対して遅れが生じている場合には高リスクであると判定されるが、予定そのものを変更して完了予定日を先送りしてしまえば、表面上の遅れは消えてしまう。ベースラインの引き直しにはこのような恣意的な事実上の粉飾の恐れが伴うにも関わらず、政府説明責任院の2008年の調査では連邦政府の主要なIT投資プログラムの48%が何らかのベースライン引き直しを経験しており、更にその内の51%は少なくとも2度の、11%は4回以上の引き直しを実施していた。Management Watch Listに基づくIT投資プログラムの監視を有効に機能させるべく、これらの不備を解決することが行政管理予算局の課題となった。


*1
Clinger-Cohen Act 11302(c)
*2
例えば” GAO to investigate OMB's IT project at-risk list”, (GCN, 2004/10/22)
https://gcn.com/articles/2004/10/22/gao-to-investigate-ombs-it-project-atrisk-list.aspx
*3
Committee on Government Reform (現在はCommittee on Oversight and Government Reform)
http://oversight.house.gov/
*4
“OMB MANAGEMENT WATCH LIST: $65 Billion Reasons to Ensure the Federal Government is Effectively Managing Information Technology Investments”, (HOUSE HEARING, 2005/04/21)
https://www.gpo.gov/fdsys/search/pagedetails.action?granuleId=CHRG-109hhrg20953&packageId=CHRG-109hhrg20953
*5
“OMB to release watch lists”, (GCN, 2006/09/21)
https://gcn.com/articles/2006/09/21/omb-to-release-watch-lists.aspx
*6
Government Accountability Office
http://www.gao.gov/
*7
GAO-05-276, "OMB Can Make More Effective Use of Its Investment Reviews", (GAO, 2005/04/15)
http://www.gao.gov/assets/250/246005.pdf
*8
GAO-07-1211T, "Further Improvements Needed to identify and Oversee Poorly Planned and Performing Projects", (GAO, 2007/09/20)
http://www.gao.gov/assets/120/117799.pdf
*9
GAO-08-1051T, "OMB and Agencies Need to Improve Planning, Management, and Oversight of Projects Totaling Billions of Dollars", (GAO, 2008/07/31)
http://www.gao.gov/assets/130/120968.pdf