2013年03月24日

オバマ政権下のITマネジメント改革

4.8. ITマネジメント改革のための25の施策:産業界との交流強化

IT調達ではITに関する専門的な知識を必要とする場面が少なくない。常日頃から産業界とのコミュニケーションを深め、最新のIT事情に通じておくことは重要である。一方、公共調達の一般論として、産業界とのコミュニケーションは忌避される傾向がある。しかし現在ではこれは間違った姿勢となっている。

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PART II:大規模ITプログラムのマネジメント効率化
E. 産業界との交流強化期限と進捗
24. 「迷信打破」キャンペーンを立ち上げる。6: 完了
25. 要求定義に先立つ官民交流のための双方向プラットフォームを立ち上げる。6: 完了

施策24 「迷信打破」キャンペーンを立ち上げる。

現行の調達制度に対する行政内の誤解を解くために正しい理解とあるべき取組の姿を広く訴えるキャンペーンを打つという施策である。90年代にも遡る調達制度改革を経て、現在の連邦政府の制度では情報共有を深めるための官民交流は奨励されるに至っている。しかし、公正性を重視する行政文化の観点からは、ともすれば癒着の温床とも受け止められかねない官民交流は消極的に受け止められており、しばしば違法であると誤解されている。日進月歩の技術を相手にしたIT調達においては、このような心理的障壁に基づく相互理解の不足が適切なソリューションの選択を妨げる大きな要因となっており、今回の施策はその緩和を狙いとしたものとなっている。

具体的な取組は連邦調達政策部(OFPP)からの通達の形をとった啓蒙用パンフレットの公開が主である。本稿執筆時点では2つの覚書*1*2が発行されており、行政内に見られる次のような「迷信」を否定している。

迷信「入札する可能性のある業者と1対1で会ってはならない」
事実「手心を加えることがない限りにおいて会うこと自体は一般に許されている」
迷信「受注事業者との交流は情報開示の対象となるため記録作成の負担がある」
事実「何もかもが情報開示の対象となるわけではなく大抵はその必要に当たらない」
迷信「産業界との交流を制限してでも異議申立てを避けなければならない」
事実「産業界との交流を制限することは異議申立ての抑止にならない」
迷信「提案書を受領した後の議論・交渉は著しくスケジュールを遅延させる」
事実「スケジュールの都合で議論を避けることはむしろ後々の問題を引き起こす」
迷信「事業者との交流を増やすと非正規の提案が増え調達プロセスが遅延する」
事実「非正規の提案は調達規則通り分離して取り扱いスケジュールから切り離す」
迷信「連邦サプライ表*3から発注する場合にはフィードバックを返さない方が良い」
事実「フィードバックは官民双方にとって有益であり可能な限り返すべき」
迷信「各種の官民交流イベントはあるが有益な情報は少なく無駄な機会である」
事実「よく練られた官民交流イベントは要求に関する相互理解を深める貴重な機会である」
迷信「プログラムマネージャが技術的課題について相手事業者と話し込んでいるのだから契約担当官は要求定義書の発行に先立ってそれ以上特に先方と話さなくて良い」
事実「技術的課題は調達の一部に過ぎないのであって、契約条項、価格構造、パフォーマンス指標、評価基準等についてフィードバックを得よ」
迷信「先行する情報開示期間が十分に長ければ要求定義書に対する産業界からの反応も2、3日以内に回収するとしてよい」
事実「公募期間がわずかだと十分な数・質の提案を得られない恐れがある他、政府がこの調達に実は大して関心を持っていないという誤ったメッセージとなる」
迷信「多数の事業者からの入札参加に応ずるのは困難に過ぎるから、実績のあるよく知られた事業者とだけ交渉すれば良い」
事実「馴染みのある事業者とだけ付き合っていては政府の損を招くのであって、中小事業者を含む多くの事業者の競争を呼ぶ機会を模索すべきである」

これに対して、応札する事業者の側にある誤解も次のように指摘されている。

迷信「自社を売り込む最良の方法はメーリングリストなどを使って契約担当官らにマーケティングを行うことである」
事実「行政内では一般的なマーケティングによる過剰なアプローチは日常的に却って無視されており、具体的な需要に基づいて省庁が開催する各種のセッションなどに参加する方が良い」
迷信「ITを専門とする行政関係者との打ち合わせには事業開発担当やマーケティング部門などのスタッフだけで参加するのがよい」
事実「IT専門の行政関係者と打ち合わせる際には関連事項の専門家を参加させることが遥かに有益である」
迷信「一般に要求定義書の開示前に既に省庁は調達要件やアプローチを決定しているのでこの段階で我々事業者にできることは限られている」
事実「早期段階における産業界からの情報収集は有益であり、省庁は一般に市場の現状がどうであるかということについての情報収集に大いに労力を費やしている」
迷信「行政関係者との対話を通じて重要な情報が競合他社に漏洩する可能性がある」
事実「行政関係者には法的な守秘義務が課せられている」
迷信「守秘義務の一環として既存の他の契約に関する価格等の情報も開示されない」
事実「既存の契約に関する一般的な守秘規則は存在せずむしろ積極的な共有によるコスト効率の改善が奨励されている」
迷信「行政関係者は提案の細部を読まないので提案策定にあたっても調達ごとの事情に照らしあわせた細部の作りこみを行う必要はない」
事実「調達要件に照らしあわせ提案の一致を検証するために契約担当官および評価チームは念入りに提案を評価している」
迷信「落札できなかった場合、特別有益な情報が得られることもないのでそれ以上の問い合わせなどはすべきでない」
事実「事業者指名に至る意思決定について理解し今後の入札に役立てるため問い合わせをすべき」

パンフレットの発行に加えて、連邦調達研究所(FAI)によるオンラインセミナー*4の実施や調達に関連する各種のカンファレンス等での呼びかけがキャンペーンの一環として2011年に展開されている。

施策25.要求定義に先立つ官民交流のための双方向プラットフォームを立ち上げる。

要求定義書を世に開示する前の段階で、広く色々のアイデアや可能性について情報を共有し議論を重ねるためのオンラインコミュニティを立ち上げるという施策である。IT市場の現況に沿った適切な判断の一助となる。この施策については調達コラボレーションツールキットという名前でオンラインコミュニケーションの場を設置したものと見られるが、当該のWebサイト*5は連邦政府関係者および契約事業者のみにアクセスが制限されているため、詳細は不明である。


*1
“Myth-Busting: Addressing Misconceptions to Improve Communication with Industry during the Acquisition Process”, (OFPP, 2011/02/02)
https://www.fai.gov/drupal/sites/default/files/Myth-Busting.pdf
*2
“Myth-Busting 2: Addressing Misconceptions and Further Improving Communication During the Acquisition Process”, (OFPP, 2012/05/07)
https://www.fai.gov/drupal/sites/default/files/Myth-Busting%202.pdf
*3
連邦サプライ表(Federal Supply Schedule)は一般調達用(GSA)が運営するコモディティ品の一覧表である。コモディティ品の多くについてはこの表を用いて簡単な手続きで発注することができる。ここでは、このような手続きで発注を行った場合に、サプライ事業者に対して何の情報フィードバックも与えなくてよいのかどうか、を論じている。
*4
Effective Vendor Engagement
https://www.fai.gov/drupal/training/effective-vendor-engagement
*5
Acquisition Collaboration Toolkit
https://max.omb.gov/community/x/_INBIg