米国にみる
「パフォーマンス重視型電子政府」と日本への示唆

Performance based e-Government in US Federal Government and its implications to Japan


要旨 米国政府の電子政府は、政府のマネジメント改革の一環として位置付けられ、パフォーマンス重視という特徴を持つ。その成立の経緯と変遷の概略を分析し背景を明らかするとともに、日本への示唆を探る。

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本稿は、経営情報学会 2009年春季全国研究発表大会
2009春季大会プログラム 研究部会セッション(官の情報システム)
(座長:森田勝弘 (県立広島大学))用に投稿した原稿に、一部加筆修正したものである。

  開催日:2009年7月11日(土)・12日(日)
   12日 14:10~15:40 研究部会セッション(官の情報システム)
   「官の情報システムをめぐる現状の諸問題」

  開催場所:明治大学駿河台キャンパス
   (〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1)

はじめに

「電子政府」という用語は、クリントン政権のゴア副大統領が主導した1993年の米国政府の行政改革レポート「国家パフォーマンスレビュー(NPR)」(1)で用いられて以来、世界的に流布するようになり、これまで電子政府の二つの側面に焦点が当てられてきた。

一つは、ITをテコにして行政活動を変革しようとする電子政府である。これを「行政活動変革志向型電子政府」という。この電子政府で登場する国民・企業は個々の政府サービスの顧客である。「行政活動変革志向型電子政府」の中でも、米国政府は近代的マネジメントを基礎にして、顧客に対する結果のパフォーマンスを重視し、英国政府は政府の近代化ないし変容を強調する。

二つには、民主主義の変容ツールとしてのITの活用を基盤にした電子政府である。国民は顧客としてではなく社会の構成員たる市民として登場し、公共空間における政府と市民の相互作用が変容する。これを「民主主義変容希求型電子政府」という。

電子政府は、国により、政権により、識者により「行政活動変革志向型電子政府」と「民主主義変容希求型電子政府」の両者の力点の置き方や内容が異なっている。また、両者は電子政府にアクセスする国民とのやり取りの内容や情報の扱いを通じて連続的につながる要素があり、重複する部分があると考えるべきである。本稿では、「行政活動変革志向型電子政府」のうち米国政府による行政マネジメント改革の一環としての電子政府の取組を「パフォーマンス重視型電子政府」と名付けて、その成立と変遷の過程を概略する。

「パフォーマンス重視型電子政府」への米国政府の取組

この形の電子政府の推進に最も体系的に取り組んできたのが米国政府であり、他の先進国も米国の動向を直接間接に受けている。

1993年9月の米国ナショナルパフォーマンスレビュー(NPR)政策の発表とそれにわずかに先行した1993年政府業績結果法(GPRA)の米国議会における成立は、組織の再編という伝統的な行政改革ではなくパフォーマンスを重視したマネジメント改革による行政改革として世界に強い影響を与えた。その背景は、政府の浪費、非効率、非効果に対する国民の不満にあった。(3,4)そして、その翌年には調達一般の改革に取組む1994年連邦調達簡素化法(FASA)が議会で成立し、さらに1996年には、情報システムに関するGPRAの特別法ともいうべきITマネジメント改革法(ITMRA)が議会で成立した。

NPRでは、全般に民間企業的発想による行政改革を志向し、電子政府については電子商取引の政府版として構想した。その狙いは行政組織の効率性の追求と顧客への簡便な行政サービスの提供であった(2)。GPRAはプロセス重視の行政から結果重視の行政に切り替えることを基本として、情報を人、資本などと並ぶ政府活動の資源と位置づけ、省庁の戦略計画に、政策目標達成のための業務プロセス、スキル、技術の記述を求めた。

FASAは、調達一般に関して民間的発想を取り入れてコストダウンを図ろうというもので、例えば各省庁に、調達品のパフォーマンスや能力を落とさずに、コストやスケジュール目標について平均して90%の達成を求めた。(5)

政府のITに直接かかわるITMRAの背景には、政府の業務のITへの依存度が高まるにつれて、その調達、マネジメント、利用への社会的注目と監視が強まってきたことにあった。ITMRAを議会に提出したクリンガー上院議員の1994年報告書”Computer Chaos”はそのような状況でまとめられ、次の点を指摘してITMRAの成立に一役買っている。(6、7)

”Computer Chaos”報告書(1994年)の主な指摘事項
・業務プロセスとそのプロセスをIT投資の前に改善する機会に対する無関心
・組織の不十分な計画に基づいた、意図通りには動かず組織のミッションパフォーマンスにほとんど寄与しない新システムへの投資
・効果のない情報システムの実装の結果の無駄遣い
・情報産業の競争的で高速の変化を考慮しない旧態依然たるIT調達
(出典:DoD2000年資料)

会計検査院の1990年以来の74の報告書のうち半数以上において、システム導入機関が新規のコンピュータシステムの最終的なコスト総額や正確な振る舞いを承知していないと指摘。
(出典:1994年”Computer Chaos”報告書)

ITMRAではGPRAの思想の流れをくみ、結果重視のIT投資とIT調達の簡素化を求めた。このため、各省庁のマネジメントのリード役兼監視役の行政管理予算局(OMB)に、資本計画投資管理(CPIC)(8)とパフォーマンス・結果基準マネジメント(PBM/RBM)の推進と監視を求めるとともに、各省庁にCPICとPBM/RBMを導入し、同時に省庁CIOの設置とエンタープライズアーキテクチャ(EA)(9)の導入を求めた。このITMRAにより、ITマネジメント手法においてもGPRA以来のパフォーマンス重視型の行政マネジメントを本格的に適用するという発想が法制化されたのである。*1

なお議会ではこの間、政府と国民との間のペーパーレスを目的とした1998年紙作業削除法の制定、情報収集量の適正化を目指した1980年文書業務縮減法の1995年改定などが行われている。前者は業務の電子化の推進を図り、後者はいわば企業や国民の提出する文書(帳票)の記入負担の軽減をはかるものである。

ブッシュ政権に入ると政府のマネジメントツールとしてのITの位置づけをさらに強化し、新たに打ち出した「大統領マネジメントアジェンダ」五項目の一つに「拡大電子政府」を取り上げた。そして、OMBの中に電子政府部を設けて、ITMRAで求めた業務を強化するとともに、EAについては省庁EAを発展させ、政府全体を一つの組織と見立てて連邦EA(FEA)の開発に取り組んだ。これらを議会で裏打ちした法律が2002年電子政府法である。なおこの法律はそれまで大統領指令で設けられていたCIO協議会に法的根拠を付与するとともに、OBMの中に政府全体の電子政府とITを取り仕切る組織とポストを新設して行政の体制強化*2を図った。

また同政権はGPRA強化の一環として、政策プログラム評価格付けツール(PART)を導入し(10)、IT投資も含めて政策プログラムごとに目的・設計(20%)、計画(10%)、マネジメント(20%)、結果・説明責任(50%)について総合点で4段階評価(結果を示し得ていないプログラム区分を加えると5分類)をし、その結果を予算の参考にし始めている。*3行政のマネジメントと予算を担う行政管理予算局(OMB)では、各省庁から上がってきた予算案のチェック基準や手続きを通達A-11(Circular A-11)にまとめている。この通達A-11のPart 7の補遺「資本プログラミングガイド」(8)では、資本性資産への投資の評価にFEA やPARTを用いることが謳われており、しかも現状ではIT投資分野に特化しているFEAを、将来的には非IT分野にも拡張することを示唆している。

さらに、オバマ政権になってもマネジメントツールとしてのITの位置づけは変わらず、電子政府はOMBのマネジメント項目の一つとして継承されている。*4またPARTも同様である。

以上のように、米国政府では1990年代以来、ITについてパフォーマンスを重視するマネジメント一般のツールとして明確に位置づけて活用を図ってきた。そしてその責任を担うポジションとしてCIOが配置されている。すなわち、政府の活動を支える資源として人、資本(IT以外のそれ)と並んでITを位置付け、これらの資源を活用して行政活動を行い、そのパフォーマンスを向上させようという考えである。これを端的に表しているのが、FEAの中のパフォーマンス参照モデルである。(上図)(9)この図に示すように、最終的には政策の最上位の戦略的アウトカムを産出するために、ベースとして支えるのが最下段の人、IT、その他の資産で、この資源の有機的組合せで中段のプロセスと活動での個々のアウトプットが生まれ、そしてそれが上段の結果のアウトカムを生むという構成になっている。またCPICではより直接的に、上記PARTの結果も用いながら、具体的なIT投資のパフォーマンスを、計画、調達、運用、廃棄のライフサイクルにわたって評価していくことになる。(8)

「パフォーマンス重視型電子政府」を支える米国政府のIT人材

「パフォーマンス重視型電子政府」を実行するためには、マネジメントを理解した厚みのあるIT人材が欠かせない。そこで本稿の終りに米国政府のIT人材の実態について、政府の定期的IT人材調査の最新版(2006年秋調査)(11)を紹介する。

分布ITマネジメントコンピュータ
専門家(1)
通信コンピュータ
エンジニアリング
コンピュータ科学小計
(79%)

(100%)
回答者数21,035
(66%)
1,139
(4%)
1,091
(3%)
738
(2%)
1,011
(3%)
25,01431,759
職階(2)GS-12GS-13GS-12GS-13GS-13GS-12
最頻年齢51-5551-5551-5541-4541-4551-55
大卒比率66%67%47%95%94%68%
女性比率36%38%19%22%29%36%

調査母数:79,527(1)現在職種としては削除 (2)相当も含む (3)計と小計の差は、その他の職種

第一は政府のIT人材数である。調査対象の政府のIT人材(文民)は約8 万人弱である。しかし高年齢化という深刻な事態を抱えている。この調査もこの課題を解決するための基礎調査の側面がある。第二にその専門性である。米国政府の公務員制度は専門性が前提の職階性であるので当然ともいえるが、回答者の80%弱がIT関連の専門である。

第三に、米国政府が重視する主な業務活動についてその熟練度需給ギャップ分析では、以下のようになっていて、プロジェクトマネジメント系にギャップがみられる。

1.エンタープライズアーキテクチャ能力(Competency)では比較的ギャップが少ない。しかし技能は弱い。
2.ITプロジェクトマネジメント全体として課題がある。特に費用効果分析、資本計画投資評価にギャップあり。
3.ITセキュリティ関係前回より大幅に改善。
4.ソリューションアーキテクチャ能力ギャップは少ない。しかし要求分析にはギャップがある。

日本政府では比較できる統計がないので、客観的な評価が困難であるが、日本政府との最大の相違は、専門家集団として一定規模のIT人材の存在であり、これが着実なエンタープライズアーキテクチャの開発や米国の各省CIOの登用基盤を形成し、「パフォーマンス重視型電子政府」を支えていると考える。

日本への示唆

米国の「パフォーマンス重視型電子政府」は、ITを近代的行政マネジメントの強化のツールと見なして活用もすればその使い方の監視もするという姿勢で、行政全般のパフォーマンス向上策の一環として取り組まれてきていることが明らかとなった。これに対して日本の電子政府をみると、以下の三点の課題があることを指摘しておきたい。

第一に、2003年頃の電子政府構築計画の経緯(12)を見ても推察できるように、行政の上層部において、近代的行政マネジメントへの認識不足があり、その一環として情報システムを理解する発想に乏しい結果、情報システムへの組織全体としての積極的関与が不足していることである。

第二に、日本政府は、米国のGPRAに似た「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(政策評価法)を導入したが、事後評価を優先した体系であり、 事前に目標を定めたうえでその結果を評価し改善につなげるパフォーマンスマネジメントの指向が明確ではないという課題がある。その背景には、日本政府では 評価手法の厳密さが優先されて、米国政府のようなバージョンアップとベストエフォート的発想が忌避され、パフォーマンスマネジメントは広がりを見せるに至っていないことがある。まずは試して改善していく組織文化の容認が必要である。
その条件としては、以下の五項目が前提となろう。

  1. パフォーマンス目標を利害関係者間で合意し公表すること
  2. パフォーマンス達成のためのよりよい方法があれば、部門の壁を越えてすぐに適用する姿勢を持つこと(バージョンアップ)
  3. そのための何らかのインセンティブを組織に与えること(表彰などの名誉でもよい)
  4. 関係者間で常にベストエフォート情報が共有できる環境を整備すること
  5. 意図的ないしは善管注意義務を怠った過ちには制裁があること

第三に、情報システム投資へのマネジメント的取組に乏しいことである。電子政府の推進策を一覧した日本政府のウェブサイトには、情報システムの個々 の投資に関して、費用対効果を計測ないし評価した措置の記載がない。ライフサイクル費用の算出や効果の測定に困難が伴うことは理解できるが、資金の効率性 有効性担保のために、米国政府のCPICに相当するような政府全体としての投資の管理指針の策定と、それにもとづいた個別のIT投資のデータの公表が必要 であろう。(公表方法としては、オバマ政権のITダッシュボードが一つの参考になる。ここでも公表についてのバージョンアップとベストエフォート志向が有効である。)

(参考文献)

  1. US Federal Government. 1993.“National Performance Review”
  2. 同文書の付属書” Reengineering Through Information Technology”
  3. Congressional Report. 1993. “GOVERNMENT PERFORMANCE AND RESULTS ACT OF 1993”
  4. JOHN MERCER. 2001. ” STATEMENT OF JOHN MERCER, U.S. HOUSE OF REPRESENTATIVES : THE RESULTS ACT: HAS IT MET CONGRESSIONAL EXPECTATIONS?”
  5. GSA. 1997.“PERFORMANCE-BASED MANAGEMENT”
  6. DoD. 2000. “Clinger Cohen Act of 1996 and Related Documents”
  7. Senator William S. Cohen.1994. "COMPUTER CHAOS: Billions Wasted Buying Federal Computer Systems"
  8. OMB. 2006.“Capital Programming Guide Version 2.0”
  9. OMB. 2007. “FEA Consolidated Reference Model Document Version 2.3”
  10. OMB. 2008.“PROGRAM ASSESSMENT RATING TOOL GUIDANCE NO. 2008-01”
  11. Federal CIO Council. 2006.“Information Technology (IT) Workforce Capability Assessment, Federal IT Workforce Survey (2006) Data Analysis Report: Information for Human Capital Planning”
  12. 奥村裕一・城山英明.2008.「第六章 行政における業務改革とIT」城山英明編『科学技術のポリティクス』東大出版会、155-187.

*1
他に法制の上でパフォーマンス基準のマネジメントが大きく扱われた例としてはパフォーマンス基準サービス調達(Performance-Based Service Contract)がある。しかし、1994年のFASAでパイロットプロジェクトの実施が謳われたが、こちらの動きが本格化するのはブッシュ政権に切り替わってからである。PBSCは現在はパフォーマンス基準調達(Performance-Based Acquisition)と名を変えている。
*2
OMB内にOffice of Electronic Government (& Information Technology)をおき、その長としてAdministratorをおく。
*3
ただし、個別政策コストの正確な計測と結果の計測をリンクさせたパフォーマンス基準予算にまでは至っていないと思われる。
*4
2009年5月27日現在、E-Gov, Federal Financial Management, Federal Procurement Policy, Grants Management, Program Performance, Recovery Act Guidance の6項目が掲げられている。