2010年03月23日

21世紀の米国流行政革命

1. 歴史的経緯と中核的思想

米国政府における行政革命の底流にあったのは、米ソ冷戦期を通じて形成された莫大な財政赤字であった。この重荷を解消しようとするに当たってアメリカ連邦政府の選んだ行政改革のアプローチが、民間において確立している先進的マネジメント手法の導入である。

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米国連邦政府の現代的な行政電子化は、1996年に制定されたCCA(Clinger-Cohen Act)#1にその端を発すると言われる。だが、大きな行政改革の流れを捉えようとするならば、更に10年ほどを遡る必要がある。

1980年代の米国連邦政府は、東西冷戦に伴う莫大な軍事支出を背景に、慢性的な財政赤字に喘いでいた。貿易赤字と合わせ、双子の赤字と呼ばれる状況である。財政赤字は急激に増大し、1982年には1兆ドル程度であった公債残高が、1992年頃には3兆ドルを突破している。#2しかしながら、行政サービスの質は国民を満足させるものではなかった。

こうした中、ベストセラーとなった書籍Reinventing Government#3を一つの契機として、手続き偏重の行政の在り方を変革すべきである、という議論が大きな盛り上がりを見せる。この議論は後のクリントン政権における行革思想の屋台骨となり、NPR(National Performance Review)と呼ばれる正式な行革イニシアティブへと発展した。#4NPRは行政活動の総点検を行った上で、リーダーシップ、マネジメント、顧客サービス、財務、調達、人材育成、環境問題など、極めて幅広い領域に対する分析と改善勧告をもたらした。NPRが提示したあるべき行政の理念は次のように要約できる。#5

  1. 各省庁が行政の存在目的・目標を明らかにし、その文脈に沿った業績・結果に基づく予算立案と執行を行なうこと。
  2. 「顧客(国民と産業界)の満足」を上記に言う業績・結果の基本的基準とすること。
  3. 行政サービスの費用効率を高めることによって均衡財政を実現すること。

更に、その実現に向けた戦略は次の通りである。

  1. 産業界のベストプラクティスを積極的に公会計や調達制度に取り入れ、市場原理を働かせること。
  2. 顧客や市場との接点を持つ前線の官吏へ権限を委譲し、その裁量を高めると共に、説明責任を課すことによって公正性を保つこと。
  3. 業務効率を改善しつつ効果的にサービスを提供するため、情報技術を積極的に活用すること。

こうした構想の内、議会が特に理念を法令として超党派で制定したのが、1993年のGPRA(Government Performance and Results Act/政府業績・結果法)である。#6

GPRAでは各省庁に対し、国民生活に対する寄与を中心的目標としつつ、5カ年戦略計画および年次パフォーマンス計画を定期的に提出するよう命じている。これらの計画書は民間で実績のある経営学の手法をふんだんに取り入れたものであり、様々な具体的数値目標やそれに伴う予算を明示する資料となっている。

GPRAは各省庁が漫然と予算消化を重ねることを許さず、支出のそれぞれが国民生活にとってどのような意味を持つのかを明らかにするよう突き付けている。それまでにもこうした実績指向の予算管理の試みはなされてきたのだが、何れも大統領の任期に付随したイニシアティブの域を出ず、結局は定着するに至らなかった。#7これに対してGPRA は、行政組織におけるマネジメントの在り方に、永続性のある議会立法の形で踏み込んだ最初の一歩である。

ここに、米国連邦政府の新しい行政改革の歴史は始まった。

図1.米国の行政マネジメント改革の流れ

図1.米国の行政マネジメント改革の流れ


(参考文献)

#1
P.L.104-106 , "Clinger-Cohen Act of 1996", (1996/10/02) link
#2
"Flow of Funds Accounts of the United States", L.209 Treasury Securites, (FRB)
https://www.federalreserve.gov/releases/z1/Current/annuals/a1975-1984.pdf
https://www.federalreserve.gov/releases/z1/Current/annuals/a1985-1994.pdf
#3
Plume, "Reinventing Government: The Five Strategies for Reinventing Government", (Davide Osborne, Ted Gaebler, 1993/02/01)
邦訳「行政革命」(日本能率協会マネジメントセンター, 1994/12)
#4
その後、National Partnership for Reinventing Governmentと名を変えている。
下記Webサイトに関連資料が掲載されている。
"National Partnership for Reinventing Government Reports"
http://govinfo.library.unt.edu/npr/library/review.html
#5
この要約は下記資料に依る。
「米国の政府支援研究開発における予算算入費目の範囲と会計原則の合理的運用」
"第2章 政府業績結果法の役割", ( (財)日本情報処理開発協会(JIPDEC), 平成12年3月 )
http://www.jipdec.or.jp/archives/icot/FTS/REPORTS/H11-reports/H1203-AITEC-Report6/AITEC0003-R6-html/AITEC0003R6-ch2-1.htm
#6
P.L.103-62, "Government Performance and Results Act of 1993", (1993/08/03) link

なお本法は1990年の共和党ロス議員の提案に由来する。由来は下記資料に依る。
"The Government Performance and Results Act (GPRA): hydra-headed monster or flexible management tool? Journal article by Beryl A. Radin", (Public Administration Review, Vol. 58, 1998)
http://www.jstor.org/stable/977560
#7
AIMD-97-46, "Performance Budgeting: Past Initiatives Offer Insights for GPRA Implementation", (GAO, 1997/03/27) link