2010年03月21日

21世紀の米国流行政革命

4. CPIC(資本計画と投資管理)

Clinger-Cohen Actからの流れで導入されたIT投資マネジメントの手法は一定の成功を収めた。その考え方を連邦政府内での予算管理一般に適用する仕組みがCPIC(Capital Programming and Investment Control/資本計画と投資管理)である。

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FEAプログラムに至る流れは、IT投資のマネジメントを舞台にしたGPRAの理念の具体化であった。FEAプログラムの推進は行政サービスの統合を進めつつ確実にその運用コストも圧縮しており、これ自体がGPRAに基づくベストプラクティスとなった。次になすべきは、その適用領域をIT以外にも広げることである。

業務を下支えする資産、いわゆる生産手段としての資産を、連邦政府では資本性資産と呼んでいる。IT資産はこの一種であり、これ以外にも不動産、機械装置類などが資本性資産に当たる他、インフラ維持に関わる恒常的なメンテナンスサービスなども含む広い概念である。IT資産がそうであったように、長期にわたって維持される存在である資本性資産についても、業務への寄与の度合いを論じることができる。すなわち、業務と資産の関係性を明示することで資本投資の重要性を判断するという、IT投資におけるPBMの枠組みを援用できると考えられる。これがCPIC(Capital Programming and Investment Control)の基本的な着想である。*1

CPICは予算管理に重点を置いた取り組みであり、中でも特に、資本性資産のライフサイクルコストを把握することを基本としている。旧来の公共調達では調達契約ごとの入札価格にばかり気を配るのが通例であった。結果、初期の資本整備コストを節減できても長期の運用コストが高くなり、最終的な資産破棄に至るまでの総コストが大幅高となる―このようなことが現実に起こっていた。これは資本性資産を、その運用目的である業務やサービスの一部として捉える大局観が欠如していることに由来する。

CPICではまず、何のビジネスのための資産なのか、ということをビジネスケースと呼ばれる文書に明記する。更に、そのビジネスの枠内でのライフサイクルコストとビジネスへの寄与に基づき、費用対効果を論じるよう各省庁に求めている。#1この時、調達対象となる資産がIT資産である場合にはFEAに基づくIT投資の仕訳が義務づけられている。#2OMBではFEAによる分析対象を資本性資産一般に拡張することで、将来的に、あらゆる資本性資産をIT投資の場合と同様の枠組みで分析できるようにしたいとしている。

CPICのもう1つ重要な側面には、業務進行過程におけるマネジメントがある。前段に述べたようにCPICでは予算管理が基本となるが、当初策定した予算が適切な計画であるという保証は必ずしもない。計画立案過程にミスや不足はつきものであるし、時間の経過と共に状況が変化して、適切であったはずの前提が成り立たなくなることもある。米国連邦政府では、現在の状況が計画から乖離し、期待される投資収益の達成が危うくなったならば、何らかの是正措置を講じるか、場合によっては予算の執行を停止することが法的に義務づけられている。#3CPIC活動の指針としてOMBの発行しているCPG(Capital Programming Guide/資本プログラミングガイド) #4ではこのことを明記すると共に、資本性資産の調達を3つのフェーズに分けた上で、継続的なモニタリングと随時の対処を各省庁に求めている。

  1. 計画立案・予算編成フェーズ:何を幾らで調達するか、を徹底した業務分析およびリスク分析に基づいて決定する。調達の費用対効果を明らかにするために、業務に対する寄与の客観的明確化が中心課題となる。
  2. 調達フェーズ:計画通りの成果をもたらすような契約をとりまとめ、成果をもたらすパートナーシップを発注先業者との間に構築する。端的には公共入札の手続きに相当するが、どのような基準で業者選定を行うのか、どのような条件で契約を結べば関係者のリスクを低減し且つ成果を最大化できるのか、を綿密に検討・議論する。ここでいう議論には、応札業者の参加も想定されている。
  3. 運用マネジメントフェーズ:調達契約に基づく資本性資産を実際に導入し、期待される業務上のパフォーマンスを実現する。実務は、資産の利用を軸としつつ、利用状況の継続的なモニタリング、トラブルへの対処、予実格差の検証、恒常的な改善の実施などから構成される。FASAの規定は、運用マネジメントの過程で予実格差が当初目標の9割未満に低下するようならば、拠出継続中の現行予算であっても執行を停止するよう義務づけた厳しいものとなっている。

FEAプログラムとの対比で考えると、CPICの特徴は次のようにまとめられる。第1に、予算管理を基本とする財務的なマネジメント手法であること。第2に、対象をIT資産から資本性資産に拡張したより一般性の高い取り組みであること。第3に、FEAが言わばあるべき業務と資産の関係を切り出した静止画であるのに対し、CPICは時系列に沿って進行するプロセスについて枠組みを与えるものであること。将来的にIT資産以外にも拡張されたFEAとの組み合わせの下で考えるならば、アーキテクチャとプロセス、マイルストーンとスケジュール、貸借対照表と損益計算書のように、ある時点で切り出した止め絵としてのFEAに対し、その間を結ぶ動きをCPICは与えているのである。

図4.CPICのサイクル((前掲のCapital Programming Guide より抜粋、翻訳。))

図4.CPICのサイクル*2

図5.EAの段階的発展とプログラム・プロジェクト

図5.EAの段階的発展とプログラム・プロジェクト#5EAはまず第一に現状を分析した資料であり、これを特にAs-Is アーキテクチャまたはBaselineアーキテクチャと言う。これに対して、将来のあるべき組織・業務の姿をEAの形で表わしたものをTo-BeアーキテクチャまたはTargetアーキテクチャと言う。As-IsからTo-Beへの発展は様々な変革プログラム/プロジェクトの遂行を通じて実現される。As-IsとTo-Beを繋ぐ移行計画をTransition Strategyと言う。図5では、As-IsからTo-Beへと、複数のプログラム、そしてプログラム内に含まれる個々のプロジェクトの束が導く様子を示している。これらのプログラムおよびプロジェクトは多くの場合、公共調達の形を取る。従って、Transition Strategyの執行は、その多くの側面がCPICに基づく予算管理の対象となる。


*1
尚、CPICという用語はClinger-Cohen Actの中で定義されており、歴史的な出自はIT投資分野にあると言える。ここではその後に一般化されたものを取り上げている。
*2
前掲のCapital Programming Guide より抜粋、翻訳。

(参考文献)

#1
"Circular A-11, Part 7, Planning Budgeting Acquisition, and Management of Capital Assets: Section 300", (OMB, 2009) link
#2
"Circular A-11, Part 7, Planning Budgeting Acquisition, and Management of Capital Assets: Section 53", (OMB, 2009) link
#3
主に下記のFASA(連邦調達簡素化法)による。
P.L.103-355, "Federal Acquisition Streamlining Act of 1994", (1994/10/13) link
#4
"Capital Programming Guide V2.0", (OMB, 2006/06) link
#5
"FEA Practice Guidance", (OMB, 2006/12) link