2010年03月21日

21世紀の米国流行政革命

5. PBA(パフォーマンス基準調達)

EAやCPICによる投資管理は計画編成段階でのマネジメント手法に相当する。これに対して、より現場に近い調達活動の領域で、計画立案から契約締結、発注、契約管理という一連の流れをカバーするマネジメント手法がPBA(Performance-Based Acquisition/パフォーマンス基準調達)である。

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サービス結果の追求を中心に据えた行政マネジメントは、FEAとCPICによって一つの全体像を結んだと言える。しかし両者は共に、連邦政府全体や省庁のトップレベルの予算案という大きな視野でマネジメントを司る仕組みである。現場レベルのマネジメント活動からはまだ相当の隔たりがある。様々なイレギュラーが日々に生じる現場業務での課題は、いかに着実かつシステマチックに状況をコントロールするか、ということである。この課題への答えは、PBA(パフォーマンス基準調達)によってもたらされつつある。

PBAは手続き重視の調達制度に対する反省から生まれた調達手法である。

連邦政府における公共調達では、調達する有形資産すなわち調達物品の仕様を極力詳細に規定した上で公募に掛けることが規則付けられている。施設メンテナンスや業務代行といったサービスの調達に関しても、この規則に沿う形で詳細な仕様書が用いられていた。だが、有形資産の調達ならば納品時点で形態がはっきりと定まるのに対し、サービス契約の実施過程では多くの微調整や変更が発生する。そうした融通の内容が仕様書に予め記されていないと契約からの逸脱となってしまうため、過度に細部に立ち入った仕様書を、公募開始前に膨大な労力を投じて策定することが慣例化しており、発注に至る調達プロセスそのものが長期化・高コスト化していた。ばかりか、あまりに事細かな仕様書は受注業者の行動を制限してしまい、サービス契約価格を一般に高止まりさせる要因ともなっていた。

これに対してPBAでは、FAR(Federal Acquisition Regulation/連邦調達規則)を変更し、調達するサービスを通じて達成すべき業務上の利益を明確化しておけば、サービス実施の詳細については受注業者の裁量に任せても良い、とする新たな方針を採用している。

PBAは当初PBSC(Performance-Based Service Contract/パフォーマンス基準サービス契約)と呼ばれ、80年代になされた政府内の調達制度研究の成果を受けつつ、冷戦構造が崩壊した90年代に入って議論が具体化し、湾岸戦争後に導入が始まったものである。2000年代に入ってからはブッシュ政権の下で実践が本格化し、既に調達契約の過半を占める基本手法として定着するに至っている。

以上の経緯から見て取れるように、PBAはFEAやCPICとは独立に、現場業務の改革として発達してきたものであるが、達成すべき目標を軸とする、という点では性格を一にする。そしてまた、PBAの実践は調達の現場業務そのものであるため、FEAやCPICにはない次のような具体的特徴を備えている。#1

  • KPI基準の契約締結:PBAは調達の方式の1つであり、行政にとって意味のある目標を達成すること、を契約要件とする。例えばビルの清掃サービスの契約であれば、毎朝8時の始業前までに清掃が終わっていること、月に1度の衛生検査で所定の衛生基準を満たすこと、といった目標が契約要件となり、それを実現するための手段については受注業者の裁量に任せることが許される。契約要件は主にKPIと付随する制約事項の形でまとめられる。
  • インセンティブの導入:インセンティブとは、標準的な契約要件を上回る成果に与えられる追加報酬である。最低限の品質だけを守ってコスト圧縮を狙う動機が受注業者にはあるが、これはしばしばサービスの品質低下や不安定化に繋がる。インセンティブを導入することでこれを避け、より以上の結果を積極的に業者から引き出すことが可能になる。インセンティブは必ずしも金銭的なものとは限らず、契約期間の延長や、しかるべき場での高評価の授与といった形を取りうる。
  • 品質保証監査の重視:発注者である行政組織が自ら調達結果の品質を監査する活動を品質保証監査(Quality Assurance Surveillance)と言う。具体的には、定期的なモニタリングや第三者機関を利用した抜き打ち検査などが該当するが、何れにせよ、行政組織自身が主導して品質チェックを行うことに要点がある。問題が発見された場合には決済を一時停止することが法的に認められており、この権限を背景にして、受注業者に改善を求めることができる。また、監査の過程で改善の余地を見出せば、継続的にサービス品質を高めるよう受注業者と協議することができる。
  • パートナーシップの構築:行政組織には受注業者との間に密なコミュニケーションを持つことが推奨されている。受注業者に多くの裁量を与えるということは、サービスについて受注業者のみが知りうる側面が増えるということである。品質向上のためには、受注業者の声をよく聞き、また、利用者としての自分達の声をしっかりと伝えることが欠かせない。定期的なミーティングを持つことや、行政側からも常時の連絡担当者を選任することが、よい方法として例示されている。更に、こうしたコミュニケーションを契約締結の前後にも恒常的に維持することで、サービス市場に対する土地勘を養うことも推奨されている。

法規に含まれる品質保証監査を除いて、これらはPBAの義務的要素ではない。しかし、法規やガイドラインにおいて明確化され、現場の判断において積極的に利用することが推奨されているツールとなっている。内容を振り返ってみても分かるように、行政にとっての業務上の利益を中心に置いた調達方式がPBAであり、手続きではなく現場レベルでのマネジメント活動に重点が置かれている。FEAやCPICにはない足回りの具体性を、PBAは補っているのである。


(参考文献)

#1
PBAの詳細はGSAが提供する下記の共通ガイダンスによくまとまっている。
Seven Steps Guide to Performance-Based Acquisition link